防災対策の検討、防災マニュアルの作成など、なかなか重い腰が上がらない管理組合も多いと思います。
「マンションの防災を本気で考える」という記事を書きましたが、いきなり本気を出すことが難しい場合は、ちょっとした話題から始めてみるのもいいかもしれません。
ここでは、身近なトイレの話を中心に書きますので、日ごろの備えの大切さを考えていただくきっかけになればよいかなと思います。
大きな地震の後、停電でトイレの「流す」ボタンが押せなくなったら、どうしますか?
- がまんする
- お風呂に水があったら、それで流す
- 近所の施設などトイレができるところを探す
- 携帯トイレを使う
さて、皆さんならどうされますか?
1.がまんするのはやめましょう。先の大震災で、なるべくトイレに行かなくてすむように、水分補給や食料補給を控えたことが原因で健康問題が発生したと言われています。
では、2.お風呂の水で流せばよいのでしょうか?いえ、ちょっと待ってください。
特にマンションの上層階の場合、かなりマズイことになる可能性があります。
大地震によって、マンションの排水管の一部が破損してしまった場合、トイレを流してしまうと、破損個所から汚水が下階に漏水してしまう可能性があります。
そして、もっと想像したくないのは、地震によって排水管が詰まり、公共下水管に流れなくなってしまった場合、上層階からの汚水が逆流し、下層階のトイレから溢れ出ることも十分あり得るのです。
大地震の直後は、「流せる水があっても、トイレは流さない」がマンション住民の基本です。知っていると知らないとでは、大違いですから、日ごろから掲示などで住民に周知しておくと良いですね。
大地震のあと、仮設トイレが設置されるまでの日数は?
では3.近所の施設などトイレができるところを探せるでしょうか?
大地震の後は、どこの施設も大変な状況は一緒なので、トイレ難民になること必至ですよね。
マンションの住民は、大地震の際には自宅避難が求められることも多いと思いますので、やはり自分のマンションの中でなんとかしなければなりません。
東日本大震災の後、必要な仮設トイレがいきわたるまでの日数を調べたところ、3日以内が34%、4~7日が17%、8日以上かかった自治体が49%だったそうです。
つまり、4.携帯トイレを使うのが正解になります。
皆さん、携帯トイレは備蓄していますか?
使い方は知ってますか?
携帯トイレは、何個備蓄が必要?
非常食や携帯トイレは「最低3日分、出来れば7日分」の備蓄が基本です。
大地震が起きて、始めの72時間は、公的な活動やボランティアの活動は、人命救助に集中しますので、本格的な被災者支援が始まるのは4日後からと考えておきましょう。ですので、少なくとも3日は「自分たちで」耐えしのがなければなりません。
携帯トイレは、1人1日5回使用する計算で、家族分の7日分の備蓄が望まれます。
非常食や非常飲料に比べてもコンパクトですので、是非用意しておきましょう。
いつから自宅のトイレを使っていいの?
これが、悩ましい問題です。
給排水を止めた状態で、漏水があるかどうかを確認するのは、平時であっても難しいのです。給水管であれば、すべての蛇口を締めた状態で水道メーターが動き続けていれば、どこかに漏水があるとわかりますが、排水管の場合は、漏水の有無を確認する有効な方法はありません。
では、どうするか。まず、マンションの排水管がつながる公共下水管の周辺で液状化現象やマンホールの隆起などがないかを目視で確認します。そうした現象がなければ、マンションの上階のトイレからバケツで水を流して、マンションの排水桝(第一汚水桝)の蓋を開けて流れてくるかを目視で確認します。
そして、住民に周知してチェックしてもらい、専有部分で漏水の疑いがあったら、すぐに連絡してもらい、その排水管系統の住戸は直ちにトイレの使用を停止して調査・改修作業を手配する、つまりダマしダマし使い始めるという運用になるでしょう。
排水管の系統、排水桝の位置などは、事前にマンションの設計図書で確認しておく必要がありますね。理事会メンバーでマンションの給排水管の系統や設備がどうなっているのか見学・確認ツアーを実施するのも良いでしょう。
公益法人空気調和・衛生工学会が公表している『集合住宅の「災害時のトイレ使用マニュアル」作成手引き』が参考になりますので、これらを参考に事前にルールを作成しておくことをお勧めします。
マンホールトイレはマンションにも設置できる?
「マンホールトイレ」って聞いたことありますか?名前から想像するに、道にあるマンホールの蓋を開けてその上に便器をとりつけて仮設トイレにするのかと思いますが、半分正解、半分不正解です。
マンホールトイレは、公共の下水管の近くに「事前に」非常時に仮設トイレにする場所を定めて、専用のマンホールを作っておき、非常時にそのマンホールの場所に仮設トイレを設置するものです。避難所に指定されている場所、学校や公園などを中心に、設置が進められています。
東日本大震災の時に、このマンホールトイレの評判がよかったことから、補助金などにより整備を積極的に進めている自治体も多く、マンションの管理組合も補助の対象になる自治体もあるようです。
工事現場などにある汲み取り式の仮設トイレは、発災から運ばれてくるまでに時間がかかるのと、汲み取り式ですから、臭いの問題や衛生上の問題もある程度覚悟しなければなりません。
一方マンホールトイレは、その施設に組み立てキットが保管されてますので、発災直後に設置ができて、臭いの問題や衛生上の問題は、かなり軽減されるようです。
マンション住民が各自で携帯トイレを備蓄することも必要ですが、管理組合としても、所轄の自治体に相談し、マンホールトイレの設置を検討してみてはいかがでしょうか?
<管理組合応援団 団長>