管理組合の責任と業務の負担について、区分所有者の間で衡平性を保つために、輪番の役員を辞退する人に「理事会協力金」の支払いを課したり、理事になれない非居住の区分所有者に対して一律「住民活動協力金」を課すという方法があります。
ただし、これらの方法は、気軽に採用されるべきものではなく、裁判で認められたという事実だけで、自分のマンションにも導入しようとしても、うまくいかないケースが多いことを知っておきましょう。
「協力金」の制度は一般的?
国交省が実施しているマンション総合調査では、協力金についての調査項目がないため、大手管理会社である大和ライフネクスト社が2020年7月に公表している調査レポートを参考にしてみます。
それによると、同社が管理受託している3961組合のうち5.8%にあたる231組合で「協力金」の設定があるようです。
また、同社の別のレポートで、主旨としては逆の制度である「役員報酬」の支払いがある管理組合は9.4%あるとされていますので、いずれも設定しているケースは少ないといえます。
ただし、「役員報酬」については、標準管理規約でも「別に定めるところにより、役員としての活動に応ずる必要経費の支払いと報酬をうけることができる。」とあり、細則を定めるだけで比較的容易に設定できるもので設定率が9.4%であるのに対し、「協力金」の設定は一般に規約の変更が必要で特別決議事項であることや、一部の区分所有者に対して金銭的負担増(明確な不利益)を新たに課すものですから、相当ハードルが高いにもかかわらず、5.8%も設定している管理組合がある、という見方もできます。
同レポートの「協力金」をもう少しブレークダウンすると、一律に非居住の区分所有者に課しているところが約7割、(輪番の)役員辞退者だけに課しているところが約3割となっています。
「協力金」の判例は?
非居住の区分所有者に一律に「協力金」を課す規約の変更の有効性を問われた裁判では、月額2500円の「住民活動協力金」が認められました。(最高裁、平成22年1月)
また、輪番の役員を辞退したものに課す「協力金」については、当該管理組合の役員任期である2年間の月額5000円=12万円の「理事会協力金」を一括払いさせる細則の有効性が認められました。(横浜地裁、平成30年9月)
これらの判決以降、それぞれ「この金額が裁判で認められた」という事実だけを拠り所にして、新たに設定しようとする管理組合があるようです。
しかし、裁判例は当該管理組合の固有の状況とそれまでの経緯を十分に加味して判決が出されたものですので、「協力金は、この金額まで設定してOK」と解釈するのは危険です。
例えば、非居住の区分所有者に一律に協力金を課す裁判では、規約の変更により、「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすか否か」が争点となっていましたが、裁判長の判断は、
- 月額2500円は組合費(管理費+修繕積立金)17500円の約15%にすぎない
- 非居住の区分所有者は規約上役員になることができず、組合活動に労務の提供などの貢献をしない
- 組合活動に貢献しない非居住の区分所有者に一定の金銭的負担を課すのは不合理とは言えないが、居住する区分所有者でも貢献しないものにも金銭的負担を課すことは検討の余地がある
- 「協力金」の支払いを拒んでいるのは非居住の区分所有が所有する180戸のうち12戸を所有する5名に過ぎない
これらを総合して、「特別な影響を及ぼす」とはいえないと判断されたので、2500円はあくまでもその判断理由の一部の要素にすぎません。
そもそも裁判となったマンションは、868戸の団地で、その内の非居住の区分所有者所有の180戸は約2割にあたり、その180戸に対して金銭的負担増となる特別決議案を通しているわけですから、団地内での組合運営や方針に対して相当な信頼を得られている状況にあったのではないでしょうか。
また、判決が出された平成22年当時の標準管理規約は、役員資格に「○○マンションに現に居住する組合員」とありましたが、平成23年の標準管理規約の改正で「現に居住する」は削除されています。もし、居住制限のない管理規約で、一律で「協力金」を課そうとするなら、非居住の区分所有者がほぼ全員、何年も続けて理事就任を辞退している事実と今後も就任が見込めない相当な理由が必要でしょう。逆に居住する区分所有者は辞退がほとんどない、という状況でないと難しいのではないかと考えています。
役員辞退の「協力金」の適正水準は?
次に、「理事会協力金」に着目してみましょう。
一部の区分所有者に一律の課す「協力金」ではなく、輪番の役員就任を辞退したときの「協力金」の設定の是非、あるいはその金額はどのくらいが適切でしょうか。
役員に就任するモチベーションを「内発的動機」と「外発的動機」で考えてみたいとおもいます。
内発的動機 | 外発的動機 |
---|---|
組合員としての義務を果たす | 輪番制というルール・慣習 |
自己の属する集団に貢献する | 就任すれば役員報酬を受け取れる |
難しい問題に取り組み解決する | 辞退すれば理事会協力金を支払うことになる |
自分のマンションの事情(ハード面及びソフト面)をよりよく知る | |
マンション住民との親睦の機会 |
米国の心理学者エドワード・L・デシのモチベーション理論では、報酬の有無に違いのある2つのグループにパズルを解かせる実験によって、外的報酬がむしろ内発的動機にマイナスの影響を与えること(アンダーマイニング効果)を立証しています。
上表の整理をするまでもなく、管理組合の活動は、内発的動機によって成立していることは明らかだと思いますので、外発的動機を新たに設置したり、強めたりすることは、デシの理論にあてはめれば、むしろマイナスの影響があるかもしれません。
団長としては、「報酬」や「協力金」については設定するにしても最低限のものにとどめて、むしろ内発的動機を強める目的であることを明確にすることが、役員の皆さんのパフォーマンスを最大化できるのではないかと考えています。
つまり、「報酬」や「協力金」は、あくまでも組合員全員からの感謝のしるしであり、その金額に意味はないと理解していただくことをお勧めしたいと思います。
<管理組合応援団 団長>