木造マンションはこれから普及する?

コラム

この数年、木造の中高層建築物について注目が集まっています。脱炭素の大きな流れが建設業界にも押し寄せており、大手デベロッパーや建設会社・ハウスメーカーは、CO2排出量を低減できる木材を主要構造部に使用した中高層建築物へのトライアルを始めています。
マンション業界においては、三井ホームが2021年11月に業界初となる木造マンション(5階建51戸)「モクシオン稲城」を竣工しました。
このマンションの広さは50㎡台が中心のファミリー向けですが、分譲はされず賃貸のみとのことです。
初の試みですし、妥当な判断だと思います。

この流れからすると、分譲の木造マンションが登場するのは時間の問題だと思いますので、木造マンションの「管理」や「維持修繕」についても、頭の体操をしておくべきでしょう。

木造マンションの耐久性は?

三井ホームによると、竣工した木造マンションは、劣化対策等級3(75~90年)の耐久性を謳っており、いわゆる木造アパートとは違うジャンルを創り出したようです。

これまでは、木造の集合住宅を賃貸物件として流通させようとすると、業界慣行で「アパート」に区分されてしまうため、三井ホームは、事前に木造であっても高い耐久性のある集合住宅は「マンション」に区分されるように事前に大手不動産情報サイトから合意を得たようです。

ちなみに、マンション管理適正化法においては、複数の区分所有者がいる建物で人の居住の用に供する専有部分がある建物が「マンション」と定義されていますので、木造か否かで区分はされません。
逆に、一棟ワンオーナーのモクシオン稲城はマンションではない、という話になりますが、不動産流通業界での区分が一般に認識されている区分ですから、あまり意味のない話ですね。

これまで、私たちマンション管理業界の人間は、長期の修繕計画といえば、RC造やSRC造を前提としていましたが、これからは木造の長期の修繕計画を考えなければならないでしょう。
修繕において一番の差は、RC造の弱点である中性化を防ぐための屋上防水や外装材のメンテナンスにそれほどコストをかけなくてもよい、ということになるでしょう。

木造だと、騒音問題が大きくならない?

木造戸建てや木造アパートの特徴ともいえる上階の生活騒音対策についても、モクシオン稲城は「マンション」と名乗るのにふさわしい性能が用意されています。床の遮音性能は、LH-55以下/LL-45以下を実現していますので、少なくとも上下の音の問題は、最近のRC造の分譲マンションと変わらないレベルと言えます。

騒音問題は、分譲マンションの3大トラブルのひとつですので、高いレベルの遮音性能を確保しても、騒音問題がなくなることはないと思います。しかし、木造だから騒音トラブルが多い、ということにはならないようです。

RC造と比べて値段は高いの?

この点が、おそらく今後普及するかどうかの一番大きなポイントになるのだろうと思います。
モクシオン稲城は、分譲されなかったので明確にはなっていませんが、三井ホームによると、少なくとも「木造の中高層建築は高コスト」という既成概念は払しょくできるようです。残念ながら最近のウッドショックによって、RC造よりも確実に低コストとまでは言えないようですが、工期が短いことは間違いないので、木材の価格さえ落ち着けば、平均的な建築単価が認識されてくると思います。

ただ、モクシオン稲城はRC造だと建築効率の悪い中層のマンションであることはポイントでしょう。高層マンションや大規模マンションの場合は、おそらくRC造の方が建築コストは有利なのだと思います。

住友林業は、地上350m70階建ての超高層木造ビルを創業350年にあたる2041年に実現すべく研究開発を進めているようですが、鋼材と木材のハイブリッドのようですから、脱炭素の観点からも、コストの観点からも、普及ゾーンはやはり5階程度の中層マンションなのだろうと思います。
また、清水建設は、2020年に木質ハイブリッドの中層マンションを竣工していますが、建物全体をRCと木材のハイブリッドにしたものでした。そうしたハイブリッドの材料や工法だと、一般化が期待できないことから、なかなかコストが下げられないと思います。
その点三井ホーム方式は、1階がRCで2-5階が木造という構造なので、全国の木材工場で誰でも生産可能になれば、扱える職人が増え、建築コストは大きく下げられると思います。この点は、ツーバイフォー住宅でそのメリットを十分に知り尽くしている三井ホームですので、材料や工法の普及に向けたプランも同時に進めていくのではないかと予想しています。

脱炭素やコストの他に、木造の長所は?

三井ホームによると、モクシオン稲城は、木造の特性を生かし、RC造の半分以下の外壁熱還流率を実現して省エネルギー対策等級4を取得しています。建設時のCO2排出量だけでなく、普段の生活での省エネにつながる断熱効果を持ち合わせているようです。

そして、木材は調湿効果がありますので、乾燥に弱い体質の方などには、RC造よりも快適さを感じることができると思います。

また、数字で示すことはできませんが、地球にやさしい建物に住んでいるという満足感は、これからの社会においては価値が増してくるのではないでしょうか。

誕生したばかりの技術ですが、今後の普及をにらんで、管理組合応援団としてもウォッチしていきたいと思います。

<管理組合応援団 団長>

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