役員の「善管注意義務」とは?

コラム

マンション管理組合応援団では、区分所有者になられた皆様には、是非管理組合の役員を経験していただきたいと考えています。その取り組みによって、マンションが適切に維持管理され、住民のマンションライフをより豊かにすることに貢献できたという実感が持てたとしたら、それが何よりの報酬だと思います。
それでも、もし大きな責任が伴うなら、それは事前にちゃんと理解をしておきたいものですよね。非常に稀な例ではありますが、管理組合の役員が、個別にその責任を問われた事件を紹介します。

役員が損害賠償金の支払いを命じられた判決

昭和46年築の自主管理マンションの管理組合で、長年会計担当を務めていた理事が管理組合の預金口座から約5000万円を横領していました。発覚した時にはその理事に支払い能力はなく、管理組合は当時の理事長、会計監査役員(監事)、副理事長に対し善管注意義務違反であるとして損害賠償を請求しました。

平成27年3月の東京地裁判決は、当時の理事長と会計監査役員に対し、善管注意義務違反を認め、請求額の1割にあたる約500万円の支払いを命じました。また、副理事長の善管注意義務違反は認めませんでした。

善管注意義務とは、民法第644条の「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。」というものです。
無報酬もしくはわずかな報酬で引き受ける管理組合の役員ですが、管理組合から(役員の)業務を委任され、役員はそれを受任したことになるので、その業務を善良なる管理者の注意をもって取り組まなければなりません。

どのくらいの注意を欠いたら、善管注意義務違反となるのか。

判決で指摘された点を確認してみましょう。

まず、会計監査役員については、会計担当が作成した収支決算報告書を確認・点検し、会計業務が適正に行われていることを確認すべき義務があった。しかし、会計担当がワープロで偽造した残高証明書を安易に信用して、その確認するだけで、容易にできるはずの預金口座の通帳の確認をしなかったことは、善管注意義務違反である。

次に、理事長については、収支決算報告は会計担当が作成し、会計監査役員による会計監査が行われていたとしても、最終的な責任は理事長にある。会計担当に通帳と印鑑を両方保管させている(不正が容易に可能な状態)にもかかわらず、総会直前に会計担当から簡単な説明を受けるだけだった。やはり、預金通帳を自分で確認するか、会計監査役員に確認させるなど適切な指示をすべきであり、善管注意委義務違反である。

そして、副理事長については、理事長を補佐する役割であり、理事長に事故もなかった状況の中で、副理事長として会計担当の横領を予見して措置を講じるべきであったとはいえず、善管注意義務違反はがあったとはいえない。

いかがでしょうか。まだ「標準管理規約」さえない時代に自主管理を始め、通帳と印鑑の分離保管が今ほど常識ではなかった頃の話です。
団長としては、非常に厳しい判決だったという印象を持っています。

自主管理の管理組合で理事長を務めるのは大変な役割であり、理事長も会計監査役員も本業があり、休みの日の時間を割いて組合業務を続けていたようですが、他の組合員の関心は薄く、総会出席率の低さに頭を悩ませていたようです。
裁判官は、理事長と会計監査役員の善管注意義務違反は認めるものの、管理組合に役員を選任・監督する責任があり、少数の役員に任せるままにして管理運営に無関心であった管理組合全体の責任割合を9割としました。

それでも、1割の責任割合とはいえ500万円です。この理事長と会計監査役員には同情を禁じえません。

管理組合役員賠償責任保険

紹介した事例のようなリスクを少しでも感じれば、ただでさえボランティアに近い役員の成り手はいなくなってしまうかもしれません。

そこで、管理組合が加入する損害保険に管理組合の役員賠償を補償を特約で設定できる保険会社が増えてきました。万一のリスクを考えれば、非常に低額な特約料だと思いますので、現在の保険についていなければ、是非見直しを検討してください。

限られた役員のために管理組合の保険料がほんの少し上がることに対して、もし反対意見があれば、1)高額な報酬を受け取っている株式会社の取締役でさえ役員賠償保険に加入することが常識になっていること、2)役員就任に対するデメリットを少しでも小さくすることは大きな意味があることを説明してもらえばよいと思います。

専門家の善管注意義務

例えばマンション管理士が管理組合の顧問になったり、外部役員に就任した場合には、管理業務の素人である一般の組合員が役員になる場合と違い、求められる業務水準が違います。

マンション管理士は、幸いなことにまだ善管注意義務違反の判例がないので、税理士の判例を参考にしてマンション管理士に当てはめて団長のオリジナルでマンション管理士が求められる業務水準を作文してみます。

マンション管理士は、マンション管理に関する専門知識を駆使して、依頼者の要望に適切に応ずべき義務があり、法令及び規約並びに行政等のガイドライン等に適合した助言をすることが求められ、専門家としての高度の注意をもって委任事務を行う義務を負う。

マンション管理士との顧問契約は、当該マンション管理士が専門的知識を有することを前提として締結されるものであるから、管理組合からの個別の相談又は問合せがなくても、管理組合の管理運営に関して、法令及び規約並びに行政等のガイドライン等に照らして明確に正すべき事項があることを具体的に認識し又は容易に認識し得るような事情がある場合には、管理組合に対し、その旨の助言、指導等をすべき付随的な義務が生じる場合もある

マンション管理組合応援団 団長作文

といった水準が最低限求められるのではないかと思います。

すなわち、専門家の善管注意義務は、一般の組合員から選任された役員に求められるものよりも遥かに高いレベルの業務水準を要求されているはずです。
一般の組合員の役員報酬とは違って、職業専門家としての報酬に見合う当然の義務と言えるでしょう。

そして、一般にマンション管理士は個人事業者ですので、その財力は限定されているため、マンション管理士業務に対応した賠償責任保険に加入しているのが普通です。

マンション管理士に仕事を依頼する場合、どうしてもその費用に注目されてしまいますが、こうした義務がありますので、管理組合の役員ひいては管理組合全体のリスク軽減につながると考えれば、必要経費として認識できるのではないかと思います。

<管理組合応援団 団長>

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