「大規模修繕工事の周期は12年」は、もはや一般的ではありません。管理組合は、どこかのタイミングで初期設定された12年周期を見直しを求められます。
大規模修繕工事の周期長期化は、修繕積立金会計に絶大な効果をもたらしますので、もし未検討でしたら、理事会の重要検討課題とすることをお勧めします。
12年周期では36年間で3回工事が必要ですが、もし18年周期にできるなら工事は2回で済むので、大規模修繕工事を1回分節約できる計算になります。
国土交通省の調査によれば、大規模修繕工事の戸当たり金額は75~125万円が半数以上を占めるようですから、36年間で戸当たり75~125万円の節約になる計算です。
そして、周期の長期化に、大いに役立つのが「ドローン」なのです。
これまで何故12年周期とされてきたのか?
少し歴史をさかのぼると、区分所有法が制定されたのが1962年、日本のマンションが大量供給され始めたのが1960~70年代です。当初は将来の修繕工事のことを想定する習慣などなかったことは、想像に難くありません。
そして、2000年前後には築30年を超えるマンションが「一度も大規模修繕工事を実施しておらず、工事をする修繕積立金もない」といった問題が頻発していました。
1997年の標準管理規約の改正で初めて「長期修繕計画」という言葉が登場し、その作成が管理組合の業務の一つであると示されましたが、当時なんとかして作られた計画は、内容も精度もまちまちで、まったく現実に則してないような計画も散見されていたようです。
そこで、国土交通省が検討委員会を立ち上げ、2008年に公表したのが「長期修繕計画標準様式」とその「作成ガイドライン」です。この資料の中で、大規模修繕工事の周期の例示として12年程度という数字が使われました。
それ以降、例示された長期修繕計画の様式が版を押したように新築マンションの長期修繕計画の初期設定となり、12年周期が世の中に定着したというわけです。デベロッパーとしても、原始管理規約を標準管理規約に準拠して作成する感覚で、この長期修繕計画標準様式に素直に準拠して計画を初期設定してきたのだと思います。
しかし、標準管理規約は時代に合わせて小まめに改定がなされますが、初期のガイドラインが公表された2008年以来、初めて改訂がなされたのが2021年です。その間に建材の耐久性能はかなり向上してきています。2021年の長期修繕計画標準様式の改訂で、ようやくこの「12年程度」が「12~15年程度」に伸びました。それでも15年です。これを18年まで伸ばせる根拠はあるのでしょうか。
UR都市機構の修繕周期は18年
勇気づけられる情報としてご紹介したいのは、「U Rであ~る♪」でおなじみのUR賃貸を運営母体であるUR都市機構の「修繕等実施基準」です。
約1万5000棟のマンションのオーナーとして何10年も維持管理を続け、毎年何百件もの大規模修繕工事を実施していますので、そのノウハウと経験知は日本一であることは間違いないでしょう。
そのUR都市機構が策定した修繕等実施基準の中で、これまでの実績をもとに、大規模修繕工事の周期を「18年」と定めたのです。
また、最近では野村不動産の分譲マンション「プラウド」で、グループの管理会社である野村不動産パートナーズが責任施工することを前提に16~18年周期の計画を提案し始めています。
また、最大手の管理会社の東急コミュニティーも、指定した仕様・工法を前提に、防水などの保証期間を従来よりも長期にするとともに、次回の大規模修繕工事の計画を最長18年後とする提案を始めています。
これらのことから、18年周期は現実的な数字だといえるでしょう。
18年周期にすると、何が心配か?
大規模修繕工事の周期は、特に法令などで定められたものはありませんが、それと同時に実施することの多い外壁の劣化調査は、建築基準法の第12条で定期報告が定められています。
竣工後10年を超えた、もしくは前回の全面打診等調査または外壁の全面修繕工事後10年を超えた次の定期報告までに、歩行者等に危害を加えるおそれのある外壁の全面打診等調査が義務づけられています。
外壁の全面打診等調査は、これまでは足場を組んで作業をするのが一般的でした。足場の仮設工事はそれだけで大きな時間とコストがかかることから、外壁の全面打診は、大規模修繕工事に必要な足場を利用して、工事の前に実施するのが通例です。打診調査で補修が必要な箇所をマーキングし、補修を実施するという流れを考えても合理的でしょう。
大規模修繕工事を18年周期にしようとすると、外壁の全面打診等調査の周期(12年程度)とは合わないので、それらを切り離して別々に実施しなければなりません。
しかし、外壁の全面打診等調査のためだけに足場を組めば、修繕周期の長期化による費用削減効果を打ち消してしまうので、結局周期の長期化を断念するという話が実に沢山ありました。
そこで現れた救世主が「ドローン」です。
ドローンは足場を必要とせず、ロープやゴンドラと比べても低コストです。
外壁調査点検のドローン活用は、国の重点施策
日本政府の成長戦略会議において、その実行計画の項目の一つとしてドローンの活用が以下のように明記されています。
第2章 新たな成長の原動力となるデジタル化への集中投資・実装とその環境整備
5.デジタル技術を踏まえた規制の再検討
(3)建築分野
2021年6月18日 成長戦略実行計画 内閣官房
外壁調査を行う赤外線装置を搭載したドローンについて、残された課題の検証を本年度に行う。一級建築士等による打診調査と同等以上の精度を確認の上、制度改正を行い、来年度以降、建築物の定期検査における外壁調査で使用可能とする。
この計画を受け、翌年国土交通省から「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」の発表があり、いわゆる12条点検における外壁の全面打診を規定した国土交通省告示第282号の一部を改正し、打診以外の調査方法として、ドローンによる赤外線調査であって、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有するものを明確化しました。
調査手法として国のお墨付きがあり、国の成長戦略として具体的に後押しされているものですので、これを検討しない手はないでしょう。
大規模修繕工事の周期長期化をご検討の際は、是非ドローンを活用して12条点検と切り離すことをお勧めします。
<管理組合応援団 団長>