長期修繕計画に従っていれば、それほどひどい積立不足にならないのではないかと考えたくなりますが、今でこそ長期修繕計画の策定は「常識」ですが、その歴史は意外に浅く、標準管理規約にその言葉が登場したのは1997年の改訂以降です。それ以前は、修繕積立金の設定は、管理費の○%などと、かなりアバウトに定められていました。
また、国交省から初めて長期修繕計画作成ガイドラインが公表される2008年までは、長期修繕計画は、真面目に作成されたものから、実効性のない形だけのものまでクォリティがバラバラでした。
そして、大規模修繕工事の必要に迫られて実施を具体的に予定した時に初めて積立不足に気が付く、ということは実際には珍しくない話なのです。
旧耐震基準のマンションの優先課題は?
もし、旧耐震基準のマンションであれば、まず耐震診断を行い、必要な耐震補強工事を計画し進めることが最優先でしょう。明日起きるかもしれない大地震で倒壊する可能性がある建物に住む、というのは、全く割に合わないギャンブルだと思います。
現状修繕積立金が足りなかったとしても、耐震診断や耐震工事は、政府や自治体から大きな補助を受けられますし、住宅金融支援機構から融資を受けることもできます。なんとかして実施できる方法を探りましょう。
住民の命に関わることですから、耐震診断や耐震工事をしないことが、どれだけ危険なことか、そのリスクを住民にしっかり理解してもらった上で、先送りをするにしても、きちんと総会で意思決定すべき事項でしょう。
耐震診断の有無とその診断結果は、不動産取引の際の重要事項説明に記載義務があるので、資産価値が下がるという方が、いらっしゃるようですが、そもそも旧耐震基準の建物で、耐震診断をしていないマンションは、その時点で資産価値を大きく下げていると認識すべきではないでしょうか。
修繕工事費をどう工面するか
耐震工事でなくても、マンションの大規模修繕工事は、戸当たり75~125万円程度あるいはもっと高額な費用負担となります。これまでにその積み立てが十分でない場合は、一時金を徴収するという方法があります。
しかし、例えば戸当たり100万円の一時金を、高経年のマンションで徴収することは、かなりハードルが高いものです。高経年のマンションでは住民も高齢化し、世帯収入は年金のみという住戸も少なくないため、合意形成ができずにとん挫するケースがあります。
そこで、管理組合が借入をして工事資金を調達する方法があります。これなら、各住戸がまとまった資金を用意する必要はありません。
住宅金融支援機構では、無担保で共用部分の修繕工事やそのための調査診断、長期計画の作成資金まで低金利で融資してくれます。
一つだけハードルがあるとすると、「月々の返済額は、修繕積立金の80%以内」という制限です。修繕積立金の金額設定が不十分だったことが理由で資金不足になっている場合は、借入をするには修繕積立金の値上げは必須でしょう。
リバースモーゲージ・ローンを修繕費に充てる
一時金も無理、修繕積立金の値上げも無理だった場合、もう打つ手はないのでしょうか。
もし、マンションを遺産として残さなくてもよい方でしたら、「リバースモーゲージ・ローン」という選択があります。マンションを担保にした融資で、尊命中は金利負担のみで、元金は債務者の死亡時に物件の売却資金で返済する仕組みです。
このローン資金使途は、住宅購入資金だけでなく自宅の修繕費に充てることもできます。
「自分はそう長く生きないから、自分の寿命よりもマンションの寿命を延ばすための修繕費を払うのは反対だ」という住民がいらっしゃったら、是非このリバースモーゲージ・ローンをお勧めください。尊命中の負担は小さいけれど、尊命中の住み心地が良くなる(あるいは悪化を止める)ので、本人にも十分なメリットがあります。
しかし、今回の一時金を払えたとしても、また将来も発生したときにどうなるのか不安が残ると思います。そこで、住宅金融支援機構は、リバースモーゲージ・ローンを将来の修繕費用に充てられる融資制度を2021年4月から開始しました。希望する住戸にリバースモーゲージ・ローンを実施し、その融資資金を管理組合が一括して代理受領し、そこから将来の修繕費用に充てていく仕組みです。
当然、管理規約の変更、会計処理の変更、長期修繕(修繕積立金)計画の見直しが必要で、組合員全員がこの仕組みについて十分に理解する必要がありますので、マンション管理士などの専門家のサポートを前提としています。
これまで説明してきたような話だけでなく、修繕積立金不足によって、様々な難しい問題が発生している場合は、自分達だけで解決しようとせずに、是非専門家を頼ることをお勧めします。
<管理組合応援団 団長>