空き家は放置厳禁!

100年価値を保つには

人口減少、建物の老朽化、賃貸化率の増加、住民の高齢化など、現実的に起きている現象の結果として、「空き家の増加問題」が注目されています。

地方での空き家問題は深刻で、各自治体は、様々な施策で対応をしていますが、決定打はなく、問題はじわじわと拡大しているという状況だと思います。
では、都心部のマンションはこれを他人事としていられるのでしょうか?

空き家率13.6%?

総務省統計局 平成30年住宅・土地統計調査より

総務省統計局が5年毎に公表している「住宅・土地統計調査(以下、住調)」の2018年度の調査では、日本全国の空き家率は13.6%、東京都でも10.6%という高い数字が報告されています。
この数字が発表された当時、多くのメディアで空き家問題の深刻化を報道する記事がみられました。東京都で10.6%ってちょっと肌感覚と合わないですよね?
団長が関わっているマンションにおいても、滞納問題はあっても、空き家で困っている状態にあるところはありません。全体で10.6%ということは、どこかに空き家率80%のようなスラムマンションや空き家だらけの地域があるのでしょうか?
などと調べていましたら、この「空き家率高すぎ問題」をしっかり学術的に研究されている方がいました。複数の研究機関や大学教授などを歴任されている宗健氏が、2017年に「住宅・土地統計調査空き家率の検証」という論文を出されていますので、ご興味ある方はそちらをお読みください。
その論文では、住調の調査方法(判定方法)に問題がありそうだと推定しています。自治体の独自調査では、住調の空き家率の半分以下という結果がでており、大きな乖離があることが複数例示されています。賃貸市場のデータなどとの比較からも、住調よりも各自治体の独自調査の方が実態に近そうですね。
とすると、空き家問題は、少なくともマンションの多い都心部ではそれほど深刻化はしていない、という結論になるのでしょうか?

空き家がもたらす実害

現状、「空き家」は誰もが経験しそうな問題ではありませんが、築浅のマンションであっても、行方不明や相続がらみで空き家が発生するリスクはあるので注意が必要です。そして、所有者不明の空き家が出てしまったときには、管理組合はかなりの手間とお金がかかりることを覚えておきましょう。そして、放置すれば問題を更に難しくしますので、先送りせずに即座に対応すべき問題だということだけでも覚えておきましょう。

所有者不明の空き家がもたらす実害は、以下のようなものがあります。

  • 管理費等の滞納(金銭的損害)
  • 専有部分や専用使用部分の立ち入り困難(管理・修繕不能)
  • 周辺環境への悪影響(カビ、悪臭、害虫の発生)
  • 不法占有者の誘発(治安の悪化)

空き家でも所有者がわかっていれば、これらの問題への対処法は比較的明確で、放置しなければ問題の長期化を防ぐことができます。
しかし、所有者不明の場合は、解決までに長い時間がかかることを覚悟しなければなりません。

区分所有者が死亡し、相続人が不明の場合

例えば、1人暮らしの区分所有者が死亡してしまった場合、ローン残高があって抵当権がついていれば、銀行が競売にかけてくれる可能性が高く、新たな所有者に滞納債権を弁済してもらえる期待がありますが、ローン残高がない場合は、管理組合が唯一の債権者である可能性が高いため、管理組合が主体で調査などを進めなければなりません。

  1. まず、弁護士に法定相続人の調査を依頼します。
  2. 法定相続人が判明したら滞納管理費を請求し、全員が相続放棄するもしくは法定相続人がいなかったら、家庭裁判所へ相続財産管理人の選任の請求をします。
  3. 法定相続人以外の相続人(特別縁故者など)を捜索公告で確認します。
  4. 相続人が判明したら滞納管理費を請求し、相続放棄するもしくは相続人が出てこなかったら、ようやく住戸が競売にかけられます。
  5. 落札されれば、落札金額の中からそれまでの費用を回収し、新たな所有者から延滞債権を弁済してもらいます。

捜索公告の期間は最低6か月必要ですので、どんなに早く手続きをしたとしても最後の競売までに最低1年はかかってしまい、その間滞納も累積されていきます
そして、一連の手続きに通常100万円前後の費用が掛かってしまいますが、落札金額で足りない分は管理組合負担となります。

少ない金額でも落札されればまだましで、滞納管理費が膨らみすぎて応札者が現れない、という事態も現実には考えなければなりません。
湯沢のリゾートマンションなどでは、最低落札価格をいくら下げても応札者が現れない物件に対して、法人化した管理組合が自ら落札して滞納管理費債権を消滅(放棄)して、市場で売却して一部だけでも回収を図っている例があります。

区分所有者が行方不明になっている場合

区分所有者が行方不明となっていることが判明するのは、主に管理費の滞納に対する督促状が届かなくなる時でしょう。その場合は、そのまま法律上の手続きを進めても、行き詰る場合があります。
滞納が半年以上続くような場合、支払督促や少額訴訟が次の選択肢となりますが、それらは相手が行方不明の時は使えません。

行方不明の場合は、そのプロセスを飛び越えて「公示送達」を用いて訴訟を提起します。管理組合の先取特権にもとづいて債務名義を取得する判決を得て、強制執行という流れになると思います。
しかし、住戸内に残された動産の差し押さえで回収できるケースは少ないでしょう。となると、住戸を競売に掛けて回収するということになりますが、ローン残高があって既に抵当権が設定されていて、競売では管理組合に配当が見込めない場合、競売申請そのものが認められません。

こうなると、長期戦を覚悟しなければなりません。残された方法は、区分所有法第59条にもとづいた競売請求を申し立てる方法です。しかしこの法律は、いわば区分所有者の強制排除を目的する最終手段であることから、1、2年管理費を滞納した程度では、認められない可能性があります。

これらの手続きの困難さは、債務者が行方不明になっていなくても起きる話ですが、行方不明になっていると、更に輪をかけて手続きが困難になります。それを途方に暮れて放置すると、そこからスラム化が始まっていくことになります。

単なる管理費の滞納でも、早めの対処が有効ですが、行方不明者の滞納なら、すぐに弁護士に依頼し、できるだけ早めに手を打ち始めることが大切です。

<管理組合応援団 団長>