災害時にEVの電力でエレベーターを動かせるか?

マンションの防災

新耐震基準のマンションは大地震がきても倒壊しない可能性が高いので、マンション住民は在宅避難が基本とされています。

しかし、雨風はしのげて寝泊りはできても、マンションの高層階で、何日も在宅避難ができるのでしょうか?
停電になると、水を高層階に持ち上げるポンプや、下水を排出するポンプも止まり、建物全体で給排水が不能となり、当然トイレも使えなくなります。
たとえマンションに援助物資が届いても、エレベーターが動いていなければ、高層階まで物資を運ぶことは非常に困難です。

数千万円もする非常用電源設備が備わっているマンションは例外として、停電時に電気を確保する手段はないのでしょうか?

補助金の後押しもあって、既存のマンションでもEVの充電設備を導入する管理組合が増えてきましたが、EVは非常時の電源として利用できるのでしょうか?

マンションの高層階は電気がライフライン

2019年の台風19号で、多摩川流域で水害が発生したことは記憶に新しいと思います。

特に武蔵小杉のタワーマンションで、内水氾濫によって地下にある電気室が浸水し、しばらくの間停電が続きました。
高層階に住む多くの住人は、電気が復旧するまでホテル住まいを選択されたそうですが、その時の豪雨は短期間で収束し、長期間の停電が続いたのは、そのマンションだけだったので、その選択肢がありました。
しかし、例えば被害が広域にわたる大規模震災の際には、やはりマンション内で在宅避難が第一の選択になるので、電気の早期復旧が求められます。

こちらは東京都が首都直下の大地震で想定しているライフラインの復旧日数です。

電力: 6日
通信: 14日
ガス: 22~53日
水道: 11~30日

 東京都直下地震による東京の被害想定(令和4年5月25日公表)

「災害用備蓄は最低3日分、できれば7日分」という合言葉がありますが、これらは公助を受けられるまでの、自助の備えという意味合いが強いです。

マンションの高層階では、たとえ地上で水や食料の配給があっても、エレベーターが動かなければ自室まで運ぶことは大変ですから、やはりエレベーターの稼働が高層マンションの被災時生活環境に大きく影響することは間違いありません。

太陽光発電だけではエレベーターは動かせない?

太陽光発電は、停電時の非常用電源として期待されています。
戸建ての場合でしたら、屋根に乗せた太陽光発電だけで晴れた日であれば、日中必要な電力を賄うことができると思います。

しかし、マンションの場合は、生活に欠かせないエレベーターや、給排水ポンプは消費電力が大きいため、照明などに使う100ボルトよりも大きな200ボルトの出力が必要になります。

つまり、太陽光発電設備だけではダメで、電力を貯めておいて、必要な時に安定して大きな出力を出せるパワーユニット、つまり「蓄電池設備」が必要になるのです。

住宅に設置する蓄電池設備は、消防法上の規制とコストの面から、容量はそれほど大きくないため、エレベーターや給排水ポンプを動かす出力があっても、非常に限られた回数/時間になるので、非常時の運用としては不安があるといえるでしょう。

EVの蓄電量は蓄電設備よりもかなり大きい

住宅用の蓄電池の容量は、大きいものでも15kwh程度であるのに比べて、現在のEVには、非常に蓄電量の大きい車種もあります。例えば日産リーフの場合、62kwhの蓄電が可能です。

これだけ大型の蓄電池があれば、エレベーターや給排水ポンプを稼働させることが現実的になってきます。

日立ビルシステムと日産が実施した実証実験では、蓄電容量20kwhの日産サクラの蓄電池で15時間エレベーター(6階建て想定)を動かし続けられました。62kwhのリーフなら理論上44時間稼働を続けられるとのことです。
大地震で停電し、電気が復旧するまでの6日間、使う時間をコントロールすれば、停電中でもエレベーターを稼働させ、給排水ポンプも動かせる可能性が十分にあるのです。

EVの電気を取り出すにはV2Hが必要

災害時にEVを電源として給電をコントロールするには、充放電設備が必要です。平時はEVの充電器として使い、非常時には、EVを電源にして放電する設備(V2H)です。

V2H設備は、エレベーターを動かせる出力クラスのもので数100万円しますが、2023年6月現在、国と自治体の補助金を利用すると、導入コストを大きく引き下げることができます。

また、ごく短期間の非常用電源のことだけを考えるならば、太陽光発電も蓄電池もなくても、V2Hの設備と、非常時に利用できるEVさえあれば十分とも言えます。

EVをマンションの非常時電源に利用するときの留意点

ほとんどのケースでは、EVは区分所有者の所有物でしょう。
非常時とはいえ、マンション住民のためにEVを利用することは、EV所有者の許諾が必要です。

既存のマンションで新たにEV充電設備を設置を検討すると、EVどころか車も所有していない区分所有者にとってはメリットが感じられず、賛成多数が得られそうにないと断念するケースが多いのが現実です。
そのような時に、「マンションの充電設備を利用する個人所有のEVは、非常時には管理組合が電源として利用できる」という契約を結んでおけば、マンション住民全員の役に立つと説明できるでしょう。

EV所有者、あるいはEVの購入を検討している人も、非常時に自分の車がマンション住民の役に立つという話に否定的な人は少ないと思います。

短期間の利用ならばそれほど考慮する必要はないと思いますが、蓄電池は放充電をする度に少しずつ劣化していきますので、その点も関係者が事前に理解しておくと後でトラブルになることもないでしょう。

EVのカーシェア利用

それでも個人所有のEVを管理組合が自由に使うことに抵抗がある場合は、管理組合がEVを所有(リース)し、普段はカーシェアとして住民に利用してもらい、非常時の非常電源として管理組合が何の気兼ねもなく活用する、という方法もあります。

ただし、住民向けEVカーシェア事業は、それ単体だけでは赤字のケースがほとんどでしょう。

だいぶハードルはあがりますが、例えば太陽光発電、蓄電池、V2HそしてEVカーシェアを同時に導入して、日常の電力調達を最適化できれば、電気料金の削減によってカーシェアの赤字を補填し、災害時にも強いマンションとして資産価値の向上を見込める可能性がありますので、選択肢のひとつとして検討していただければと思います。

<管理組合応援団 団長>

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