最近、マンションの役員の成り手不足が深刻で、外部の専門家に役員をやってもらう管理組合もあるらしい。さらには、理事会さえも廃止しちゃっているマンションもあるらしいけど、それって「第三者管理者方式」って言うらしい。
なんて話、聞いたことありませんか?
2011年の標準管理規約の見直しで、外部専門家が管理組合の理事や監事に就任する方式が示されました。
この方式の中でも、外部専門家が管理者(≒理事長)に就任する方式を、第三者管理者方式と呼びます。
第三者管理者方式は、役員の成り手不足解消の決定打?
役員の成り手不足に悩む管理組合にとっては、とても魅力的な選択肢でしょう。
この表のとおり、組合員の負担だけに着目すれば、管理者(≒理事長)を外部に任せ、更には理事会を廃止してしまえば、組合員の負担は非常に軽くなります。
しかし、「組合員の意志の反映」という点に着目すれば、理事会の議論をリードする役割の管理者を外部に任せた場合、組合員が理事長を務めているときよりも、組合員の意見が届きにくくなるのはイメージできるでしょう。もちろん、外部専門家は他のマンションの事例などから客観的視点で判断する役割も期待されていますから、その点はマイナス面ばかりではありません。
そして、総会の議案を主導するのが管理者(≒理事長)の役割ですから、管理者を変更しようとしたり、管理方式を変更しようとする場合、理事長が自らのクビを提案するはずもなく、理事会で決議をとるには、ちょっとしたクーデターを企てなければなりません。
これが、理事会を廃止してしまっていたら、もっと大変です。役員でもない組合員が全体の5分の1以上の組合員の賛同を得て臨時総会を開催しなければなりません。理事長の解任だけなら普通決議ですが、理事会を復活させるなら規約変更が必要で、それは特別決議なので、考えただけでも萎えてしまうくらい大変な仕事でしょう。
団長としては、理事又は監事に外部専門家に入ってもらう方式がお勧めなのですが、役員の成り手不足に悩む管理組合にとっては、それではあまり負担軽減にならないということであれば、せめて理事会は存続させていただきたいと思います。
管理組合の追加費用負担については、むしろ理事会を廃止してしまう方が理事会を存続するよりも軽くなる場合があるのが悩ましいところです。
これは、外部専門家にとって、管理組合の理事会は、ほとんど組合員理事たちへの方針の説明や合意形成の時間と考えているからです。理事会があってもなくても、判断の結果が同じなら、理事会廃止の方が外部専門家の稼働時間が少なくすむので、それが料金に反映されるのです。
しかし、一度理事会を廃止してしまうと、もとに戻すのは大変な苦労を伴うということはしっかりと認識する必要があるでしょう。
外部専門家は、「管理会社」でもいいの?
管理会社が管理者となる方式は、昔から投資用マンションなどで存在しています。その方式で、管理組合の管理費や修繕積立金が管理会社の好きなように使われてしまったケースはよくある話ですが、現状、国土交通省も黙認をしています。この方式を分譲マンションに拡大するのは、全く違う意味合いだと思いますが、法律上は投資用と分譲の区別がありませんので、分譲マンションで問題が顕在化するまでは、規制されないのでしょう。
しかし、団長は、管理会社が管理者となることは明確に反対します。
この図のように、管理組合の管理費の大半を管理会社に支払っていますが、費用を払う側も管理会社になってしまえば、それ以降管理組合が管理会社に依頼する工事や作業は、「永遠に」管理会社にとって楽に利益のでる取引条件となるでしょう。
団長としては、そもそも管理会社は第三者管理者方式の「第三者」といえるのか疑問です。管理会社は大半の管理業務を受注する「当事者」であって、第三者ではないのではないでしょうか。
言葉のあやではなく、本来管理業務を受注する立場の管理会社に、管理組合がすべき判断を任せ、一度その方式を採用したら実質的に逆戻りできないような方式を導入するのは、全くお勧めできません。
それでも、どうしても管理会社を管理者にするのであれば、監事を二人にして、うち一人をマンション管理士など外部専門家にするか、監査法人などに外部監査を委託しましょう。それでも、「不適切な取引」や「不正行為」を抑止する効果はありますが、「不適切とまではいえないけれど、管理会社に有利な価格や条件」を止めることは難しいと覚悟しないといけません。
また、標準管理規約では、組合員の5分の1の同意を得られれば、総会を招集できる(組合員の総会招集権)となっていますが、この定数を例えば10分の1にするなど、招集できるハードルを下げておきましょう。
(組合員の総会招集権)
組合員が組合員総数の5分の1以上及び第46条第1項に定める議決権総数の5分の1以上に当たる組合員の同意を得て、会議の目的を示して総会の招集を請求した場合には、理事長は、2週間以内にその請求があった日から4週間以内の日(会議の目的が建替え決議又はマンション敷地売却決議であるときは、2か月と2週間以内の日)を会日とする臨時総会の招集の通知を発しなければならない。
マンション標準管理規約(単棟型) 第44条
2 理事長が前項の通知を発しない場合には、前項の請求をした組合員は、臨時総会を招集することができる。
そして、組合員名簿の閲覧請求などを定めた(帳票類等の作成、保管)の条項は、より実効性を高めるために「閲覧」だけでなく「謄写」も請求できるようにしておきましょう。
(帳票類等の作成、保管)
理事長は、会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿及びその他の帳票類を作成して保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
マンション標準管理規約(単棟型) 第64条
・・・以下省略
中には、この第64条の条文を削除する改定案を出してくる管理会社もあるようですが、それは、将来管理会社(管理者)に不信を感じた組合員がいたとしても、体制変更を提案することを限りなくに不可能にしておくという意図があると考えた方がよいでしょう。
高級マンションには第三者管理者方式が相性がいい?
何をもって「高級」というのか、定義はあいまいですが、区分所有者の皆さんが総じて仕事が忙しかったり、社会的に重責を担っている人が多いマンションでは、管理組合の役員はお金を払ってでも辞退したいという声も実際よく聞かれます。
「一戸建てなら、家のメンテナンスは自分の時間を使って汗をかいてやるのだから、マンションの共有部分の管理に自分達の時間を使うのは当然だ」という意見がありますが、豪邸の一戸建てに住んでいる方は、メンテナンスはアウトソースしているケースが多いでしょう。
そうすると、マンションの管理はプロに適正なお金を払ってアウトソースするという考え方がなじむのだと思います。つまり、区分所有者が主体性をもって管理するのではなく「管理まで含めてデベロッパーブランドを信頼する」という心理に対応した取引形態なのだと思います。
大手デベロッパーの一部では新築する高級マンションについて、初期設定から第三者管理者方式を採用し始めています。
悪用すれば管理会社が不当な利益を確保できる仕組みであっても、大手ブランドなら、そこまで不当なことはしないだろう、という「信頼関係」で成り立つものですので、それを管理会社が裏切らなければ、ひとつの形態として確立する可能性はあると思います。
分譲マンションにおいては、第三者管理者方式はまだ始まったばかりです。管理会社が管理者となるケースも含め、今後起きるであろう諸問題を注意深く分析して、管理組合にお勧めできる第三者管理者方式を発信していこうと思います。
<管理組合応援団 団長>