分譲マンションは、新築の頃は管理費滞納を心配することはほとんどないと思いますが、20年、30年と経年していくうちに、一定割合で管理費の滞納が出始めるものですので、現状滞納がなくても備えは必要です。
滞納が恒常化していたり、その金額が大きければ、管理費会計の収支悪化や積立金不足となり、管理費等の値上げにもつながりかねません。
管理費等の滞納状況は、不動産取引の際の事前チェック項目ですから、外部の人も知ることができますので、マンション全体の資産価値に影響します。
なにより滞納の回収作業は大変ですので、普段からの予防や準備をしておきましょう。
滞納は、最終的には差し押さえや競売で取り返せるのでは?
万策尽きた時には、区分所有法第59条にもとづいて競売にかけ、競落人から滞納債権を回収することになりますが、それまでの管理組合の苦労は相当なものになります。多くの場合は、生活に困窮するような区分所有者に対して督促を続けて、最終的にはその部屋を競売にかけて回収するわけですから、回収する方も相当な心的負担があることを覚悟しなければなりません。
いつもなら頼りになる管理会社も、督促業務に関しては、かなり早い段階で「手をひいて」しまいます。ご自身のマンションの管理委託契約にある「管理費等滞納者に対する督促」をご確認ください。
【管理費等滞納者に対する督促】
マンション標準管理委託契約書 別表第一の抜粋
一 毎月、管理組合の組合員の管理費等の滞納状況を、管理組合に報告する。
二 管理組合の組合員が管理費等を滞納したときは、支払期限後○月の間、電話若しくは自宅訪問又は督促状の方法により、その支払の督促を行う。
三 二の方法により督促しても管理組合の組合員がなお滞納管理費等を支払わないときは、管理会社はその業務を終了する。
「支払期限後〇月の間」のところは、マンションによって異なりますが、いずれにしても1年経たないうちに、管理会社は督促業務を終了してしまうということです。滞納がいよいよ深刻になってきたときに管理会社は手を引いてしまい、その後の回収の責任は「管理組合」となることをしっかりと認識しておかなければなりません。
もちろん、大抵は「あとは弁護士に任せる」ということになると思いますが、法的措置の選択肢や実施のタイミングは、滞納状況や滞納者の経済状況などに応じて、弁護士に助言をもらいながら理事会が判断しなければならないのです。そして「時効」を意識した法的措置の判断は、常に神経を使いますし、理事会は判断に対する説明責任を負うことになります。
長期滞納を少なくするには?
以下の表にある通り、分譲マンションは経年に比例して滞納の件数が増えてきます。築40年にもなれば、3割を超えるマンションが滞納問題を抱えているという状況です。
完成年次 | 3ヵ月以上の滞納住戸があるマンションの割合 |
~2014年 | 11.4% |
~2004年 | 22.6% |
~1994年 | 26.4% |
~1984年 | 30.8% |
~1974年 | 46.7% |
「滞納」は、そうせざるを得ない理由があるわけなので、管理組合の働きかけだけでゼロにすることは難しいでしょう。しかし、区分所有者の債務の中で管理費支払いの優先順位を少しでも高めてもらうことはできると思います。
その方法は以下のようなものです。
- 滞納初期段階からの理事会の関与
- 管理費等滞納に対する対応マニュアルの整備
- 最終手段(競売請求)まで示した対応手順の周知
- 遅延損害金の設定と周知
滞納初期の段階は、管理会社が対応してくれますが、管理会社まかせにせずに、理事が一緒に訪問したり、電話での督促を管理会社の担当者と一緒にやることで、滞納者が「同じ住民である理事に迷惑を掛けている」という意識をもってもらうことを期待します。
そして、滞納対応マニュアルを整備して、住民に周知しておきます。
細かいことは別にして、最終的に競売請求をして回収する、という流れが一目でわかるフローチャートだけでも定時総会で毎回配布してもよいかもしれません。
やはり、管理費滞納は最終的には競売につながるのだということを普段から意識してもらうということが重要です。
遅延損害金の設定は、設定していなくても法定利率の年率3%を賦課することができますが、例えば10%などの高い利率にすることもできますので、それを明記しておくことで、滞納期間が延びれば雪だるま式に債務が大きくなることを知っておいてもらうことも抑止効果につながるでしょう。
滞納者の名前を公表するのは抑止効果になる?
滞納者の名前を掲示することは、名誉棄損で訴えられるリスクがありますので、お勧めしません。
これまでの判例では、総会の事業報告の中で、滞納者の名前は記さずに、部屋番号と滞納額を記して対応内容を報告することは問題にはなっていないので、事前に滞納者に対して「総会資料にこのように記載することになります」と通告するだけで、返済につながることがあるようです。
そのようなことも含めて、「滞納対応マニュアル」を定めておくと、理事会の判断に迷いがなくなりますし、迅速な対応ができますのでお勧めです。
<管理組合応援団 団長>