理事会メンバーが貴重な時間を割いて真摯に議論して様々な問題の解決や住み心地の改善につながる活動をしているのに、一年の活動の締めくくりの定時総会で、出席した組合員から「理事会が何をやっているのかよくわからない」といった残念なコメントをもらった経験はないでしょうか?
どんなにすばらしい活動をしていても、それがマンション全体に伝わっていなかったら、効果は半減どころか、「理事会が勝手に決めたこと」と不要な反発を受けることさえあります。日ごろの活動を無駄にしないように、広報活動に力を入れて、理事会運営の実効性を高めましょう。
広報の役割はどこに規定されている?
マンション標準管理規約には、管理組合の業務のひとつとして、「広報及び連絡業務」があるとされていますが、役員の役職には広報担当の記述はありません。
記載があるのは、理事長、副理事長、会計担当、監事までです。小規模から中規模のマンションでは、広報の実務は管理会社に任せ、理事長か副理事長などが広報担当を兼務しているケースが多いのではないでしょうか。
しかし、団長の考えとしては、広報担当は理事長の次に重要なポジションであり、専任の理事を置くべきだと思います。
広報担当の業務は主に以下の項目です。
- 点検や清掃、工事などの日程のお知らせ
- 共有施設の予約状況の情報
- 生活マナーの注意事項(騒音やゴミ出しなど)
- 管理組合のイベント開催のお知らせと結果報告
- 理事会からのお知らせ
1.から3.までは、通常管理会社の業務範囲でしょう。4.についても、防災訓練と定時総会しかイベントがないマンションでしたら、やはり管理会社に任せているケースも多いでしょう。
しかし、コミュニティ活動などイベントが沢山あるマンションでは、広報の役割は重要で、イベントの盛り上げに一役買い、参加率アップにも直結します。
イベントの告知と実施報告は、主催者の「想い」が伝わるものですから、管理会社には任せるものではなく、広報担当の業務とすべきでしょう。
一番重要なのは「理事会からのお知らせ」
理事会での議題とその結論は、「議事録」を作成しているはずです。
この議事録を「お知らせ」として配布するのが最も手軽な方法ですが、広報的な効果は、あまり期待できません。
議事録は、管理組合の公式な記録として残すことを目的に作成されていますので、必要最低限の内容となっていますので、そこに理事メンバーの「想い」は入っていません。むしろ、そうした感情を極力排除した文章にするのが一般的です。
広報は、その情報を受け取る側の立場に立って、伝える側の意図が正しく伝わるように心がけるのが基本ですから、それを見れば、理事会での議論の様子が伝わるような「お知らせ」が理想です。
例えばある問題に対して理事会で多面的に検討したのなら、検討した内容を具体的に書く。また、一度の理事会で結論がでないことも多いので、様々なところから情報をとって、その内容を理事会がどう受け止めたのか進捗を伝えることも大事です。
総会の議案になるまでの過程を住民の皆さんと共有していれば、総会の場で「初めて聞いた」「突然賛否を問われてもすぐに答えをだせない」などの後ろ向きな意見はでてこないと思います。
もし、理事会が検討中の事案に対して住民から意見が寄せられたら、理事会メンバーが気が付かなかった視点があれば、理事会で検討し必要に応じて総会議案に反映させ、偏った意見であれば、そうした意見もあったが検討の結果、議案はこうなったと説明することができるでしょう。
自分たちのマンションで何が問題になっているのか、その問題に対してどんな意見があるのか、一般的にはどう解決されているのかについて、住民の皆さんは関心があるはずです。それらを積極的に伝えることで、管理組合活動への信頼を高め、参加意欲を高めることができるでしょう。
デジタルツールを使った広報活動
今どき紙で全戸配布なんて、印刷代ももったいないし、デジタルだけで十分では?
といった意見はよく耳にします。
もし、マンションの区分所有者とその家族の95%がスマートフォンを使いこなし、SNSにも抵抗がない状態であれば、グループウェアやマンション専用サイト、またはLINEやFacebookなどのプライベートグループを作って、日々の連絡や活動報告をすることは望まれる対応だと思います。
その体制が確立できたら、紙の配布は希望住戸だけに限定することは可能でしょう。
総務省の調査によると2020年末時点では20~39歳のスマートフォン普及率は約95%、41歳以上は80%台です。分譲マンションの区分所有者とその家族の年齢層を考えると、現状は紙の配布をなくしたら、管理組合のお知らせが届かなくなってしまう世帯が相当数あると考えた方がよいでしょう。
紙の配布も続けつつ、デジタルでも発信を始めようとすれば、単純に業務量が増えるわけですから、それを快くサポートしてくれる管理会社は少ないでしょう。
大手の管理会社の中には、独自に開発したデジタルコミュニケーションツールを提供し始めているところもありますが、まだ試行錯誤の段階といえます。
一般に普及しているSNSや市販のグループウェアを利用するなら、広報担当理事が、がんばらなくてはなりません。
ただしここで、あまりがんばり過ぎてしまうと、その後の理事会にデジタルツールが得意な人がメンバーにいない期があると、停滞あるいは休止してしまいます。
そうならないように、現状はSNSやデジタルツールに慣れていない人でも引き継げるような作業内容にとどめておく。この塩梅がなかなか難しいところです。
そして、管理組合が使うデジタルツールは、できるだけひとつに集約した方がよいので、広報だけではなく管理組合全体のデジタル化を俯瞰して、理事会でコンセンサスを得ておくことが必要でしょう。
詳しくは「マンションのDXは何から始める?」をご覧ください。
外部への発信は必要?
マンション内での広報活動が定着したら、意欲的な広報担当理事は、外部への発信について検討するかもしれません。
外部からは見ることのできない共用施設や中庭など、建物のハード面の価値や魅力について外部に発信することは、新築時の販売促進と同じ役割があり、流通市場でのマンションの価値を高めます。
また、新築時にはない、そこに暮らすリアルなコミュニティの様子を伝えることで、買い手に安心感を与えます。そのコミュニティに参加したいと感じる方に購入してもらうことは、受け入れる側にもメリットがあるでしょう。
さらには、住民自身が自分たちのマンションに誇りと愛着を高めることで、より良いコミュニティ形成にもつながります。
ただ、これらのメリットを定量的に説明するのは難しく、ウェブサイト構築費用や広報担当の業務量ばかりが着目されてしまうので、現状、これを実現できているマンションは非常にレアケースだと思います。
それでも目標をもたなければ、実現可能性はゼロですので、管理組合でそうした機運が高まり、人材もそろっていたら、是非目指していただきたいと思います。
<管理組合応援団 団長>