収容人数50人以上の全てのマンションで選任が義務付けられている「防火管理者」。その法律上の義務と担ってほしい役割について書きたいと思います。
法律上の義務と責任
「防火管理者」はマンション標準管理規約には登場しませんが、消防法にその選任及び義務が定められています。
消防法第8条1項を要約すると「一定規模以上のマンションでは、管理権限者(≒理事長)は、政令で定める資格を有する者のうちから防火管理者を定め、①消防計画を作成し、②消火、通報及び避難訓練を実施し、③消防機器・設備の点検及び整備、④その他防火管理上必要な業務を行わせなければなならない」と定められています。
また罰則規定もあり、管理権限者が消防署長の命令に従わなかった場合、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金、場合によってはその両方が科せられます。
区分所有法における管理者(≒理事長)の罰則規定は「20万円以下の過料」ですから、厳しさが違いますね。やはり防火管理は人命に直結しますので、その責任の重みが違うということでしょう。過去の大規模なビル火災においては、管理権限者や防火管理者が防火管理責任を問われ有罪判決を受けた事例もあります。
こうした話を聞くと、責任の重い防火管理者や管理権限者(≒理事長)に就任することに及び腰になってしまうかもしれませんが、そもそもマンションは広い空間のある商業ビルと違い、防耐火性能に優れた建材で細かく区画された部屋の集合体であることから、日本では大規模火災となった例はなく、マンションの管理権限者や防火管理者が罪にとわれたこともありませんので、それほど心配する必要はありません。
ただし、タワーマンションのような構造であれば、海外では大規模火災となった例がありますので、その場合は商業ビルの管理権限者や防火管理者と同等の意識を持つ必要があるでしょう。
防火管理講習
ここで、防火管理者となるために履修が必要な「防火管理講習」の内容がどんなものか紹介します。下表は、延べ床面積500㎡以上のマンションに必要な「甲種」防火管理者の講義内容ですが、延べ床面積が500㎡未満の場合はより基礎的な「乙種」防火管理者でよく、「甲種」の2日間計10時間の講習を1日5時間に要約した講習になっています。
講習科目 | 主な内容 |
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過去の災害事例と防火・防災管理制度 | 火災事例から学ぶ教訓 防火・防災管理制度とその業務概要 |
火災に関する基礎知識 | 火災に関する基礎知識 危険物等の安全管理 |
火災事例と出火防止対策 | 出火防止対策 火気使用設備器具等の維持管理 |
施設・設備の維持管理 | 建築物の防火対策と避難施設 消防用設備等の種類と維持管理 |
消防用設備等の操作要領(実技) | 消防用設備等の操作及び取り扱い要領 |
講習科目 | 主な内容 |
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地震・その他の災害対策 | 地震・その他の災害から学ぶ教訓 地震対策とその他の災害対策 |
自衛消防の活動 | 自衛消防対策の重要性 自衛消防組織 自衛消防活動及び自衛消防訓練 |
災害対策の実施要領(実技) | オフィス家具等の転倒防止 応急手当、救出・救護要領 |
消防計画の作成要領 | 消防計画の作成基準・作成要領 消防計画の実効性の確保 |
防火・防災管理の進め方 | 防火・防災管理の進め方 防火対象物・防災管理定期点検報告 消防法令に基づく届出等 |
2日目の講習の後、簡易な効果測定があり、20問の正誤問題を20分で解きます。簡単な設問なので、全ての講義をちゃんと受講していれば落ちる心配はありません。
ちなみに団長がこの講習を受けた時に改めて認識したことは、
- マンションは相対的に火災に強い(延焼しにくい構造)
- 初期消火の重要性(住民全員が消火器を使えるように訓練で学ぶべき)
- 煙の怖さ(火災における死因は火傷ではなく一酸化炭素中毒がほとんど)
- スプリンクラーは自動で止まらない(消火したら手動で止める)
「防災担当者」としての役割
防火管理講習で学ぶことは、建物における火災の原因とその予防についてが7-8割、地震など災害に対する防災の知識が2-3割です。
そして、消防法で作成・提出が義務付けられている「消防計画」が作れるようになります。マンションで実施している消防機器・設備点検の内容を把握し、一年に一度の避難訓練を企画できるようになります。
つまり、マンションで消防法上の義務を果たすための知識が得られるわけですが、団長としては、法律上の義務だけで終わらせるのではなく、防火管理者は、広い意味で管理組合において「防災担当者」の役割を担ってもらいたいと考えています。
マンションにおいては、火災のリスクよりも、地震やその他の災害のリスクへの備えの方がやるべきことはたくさんあり、防災担当者が中心となって住民に啓発していくことはとても価値があります。実際、マンションで「防災マニュアル」をつくろうとすれば、震災や水災への備えが7ー8割で、火災への備えは2ー3割といった構成になると思います。防火管理講習の構成とは逆の割合ですね。
管理組合の活動を、法律上の義務だけでなく、管理組合が主体的に考え、価値があると考える取り組みまで拡大していくことは、間違いなくマンションの価値を高めることにつながると思います。
<管理組合応援団 団長>