マンションも太陽光パネル設置義務化?

コラム

先日(2022年9月9日)、東京都は、2025年4月以降戸建てやマンションなどの建築物を新築する際に太陽光パネルの設置を義務化する方針を発表しました。温室効果ガスの削減目標に向けて、社会全体が動き始めていますが、家庭での消費電力の削減は必須の課題となっています。

「義務化」の是非については、様々なメディアで議論されていますので、ここではいたしません。
こうした流れが続くことを前提とすると、今後太陽光パネルを設置しているマンションが増えることは確実ですので、既存のマンションでも、新たに設置することを考える管理組合も増えてくると思います。その際に検討すべきポイントを考えてみたいと思います。

太陽光パネルの電力は、専有部分にも配電される?

マンション全体の電力消費は、圧倒的に専有部分が大きい(共用部分の電力消費は、階数や規模などによって差があるが、ざっくりいうと全体の1~2割程度しかない)ので、都や国の狙いからすると、専有部分の省エネを実現してほしいはずです。

専有部分で太陽光パネルから受電するには、全戸の電力契約を一括で特定の一社と締結しなければなりません。新築マンションなら、デベロッパーがそのような原始規約にして、販売の際に全戸から承諾をもらうことで可能となります。

もし、発電した電力を共用部分のみでの設定する場合は、管理組合の面倒を丸抱えしてくれるPPA契約が前提となると思いますので、電気料金節減効果は期待できませんが、「太陽光発電を利用している省エネマンション」という肩書きは得られます。
管理組合が設備を所有する場合は、面倒は増えますが管理組合収支に明確なプラス効果が得られます。もし団長がデベロッパーの担当者なら、税務申告が必要な「売電」は前提とせず、自家消費にのみ使う前提での設備規模で設計するでしょう。

もし都や国の狙いに応えるかたちで、発電した電力を専有部分でも利用するなら、屋上に可能な限りのパネルを設置して、蓄電池または各戸のエコキュートと連携させて、日中に発電した電力を夜間にも利用できるようにすれば、発電した電力を最大限自家消費できるので、誰もが実感できる省エネ効果を得ることができるでしょう。
最近は、省エネに対する生活者の意識は以前にも増して高まっていますので、是非デベロッパー各社には、「太陽光パネル+蓄電池orエコキュート」を新築マンションの標準仕様にしていただきたいと思います。

今後、各デベロッパーがどんな設計にしてくるのか、要注目ですね。

既存のマンションで太陽光パネルを設置するには?

新築では上記の通り、まず共用部分のみの小規模な設備とするか、専有部分でも利用するハイスペックなものかの選択を検討すると思いますが、既存のマンションであれば、専有部分への配電はハードルがとても高いことから、共有部分のみの活用にとどめるケースが多いでしょう。

共用部分のみであれば、電力料金の削減効果は限定的です。事業者が設備を所有するPPA契約であれば、手間もかからず初期投資も必要ありませんが、マンションの規模と形によっては、むしろ電力料金が上がるケースもありますので、検討初期段階でしっかりシミュレーションをすることが大切です。

管理組合が自己で太陽光パネルに投資をする場合は、PPA契約よりも着実に収支がプラスとなる計画を示せると思いますが、以下のようなハードルがあります。

  • 初期投資に対する資金手当て
  • 補助金の申請事務
  • 住民に対する10年超の長期で投資回収するスキームの説明
  • 余剰電力を売電する場合は、税務申告する手間とコスト
  • 総会の特別決議

もし、太陽光発電に条件の良いマンションであれば、是非チャレンジしていただきたいのは、専有部分への配電です。
先に高い導入ハードルがあると書きましたが、専有部分へ配電する場合は、PPA契約が前提となりますので、資金負担やメンテナンスの面倒はありませんが、最大のハードルは、電力の全戸一括契約への変更で、それには全区分所有者の賛成が必要ということです。
最高裁の判例もありますので、たとえ総会の特別決議で導入方針が承認されても、1人でも電力契約の契約切り替えに応じない住戸があると実現できません。

全住戸の賛成を得るのは、大変なチャレンジですが、達成できれば大きな経済効果と省エネへの貢献が実現できます。
理事会で十分な議論で満場一致の賛同を得てから、住民アンケートから始めて根気よく丁寧に説明会を開き、必要であれば個別に説得する場を設けて、、、という過程を踏めば不可能ではないと思います。専門家のサポートも必要でしょうが、やはり理事長が自ら実現したいという想いが住民に伝わるような行動が共感を生むと思いますので、是非チャレンジしていただきたいと思います。

屋上防水への悪影響はないの?

この点が、もう一つの関門でもあります。太陽光パネルは、支える架台が必要になるのですが、屋上の防水層を傷める懸念があります。最近は、アンカーレス架台など、防水層を傷めない選択肢がいくつかありますので、強風でパネルが飛ばないことを十分確認した上で設置方法を検討してください。

もし、屋上防水の更新工事を数年後に予定しているなら、それと同時に太陽光パネルを設置することで、通常の防水性能に劣らないレベルを実現した上で架台もアンカーでがっちり固定をすることが可能です。専門業者で屋上防水工事と同時に太陽光パネルの設置してくれる会社も増えてきましたので、問い合わせてみてください。

最近の屋上防水は15年~20年は性能が劣化しませんので、その前提で、屋上防水の更新工事のタイミングと、架台の更新工事を合わせる計画を作ることができれば安心ですね。

太陽光パネルは、南の方角に少し傾斜させて設置しますが、その土地で一番発電効率のよい確度があります。しかし、確度をつければつけるほど、強風で飛ばされるリスクが高まりますので、そこは欲張らずに安全第一で設計することをお勧めします。

防災対策にもなる?

実は経済的なメリットよりも、住民の心に響くことが多いといわれているのは、太陽光パネルは「非常時の電源になる」ということです。大きな震災や水害などで、長期間停電が続いたときでも、少なくとも住民全員の携帯電話の充電くらいは問題なくできるでしょう。

蓄電池と一緒に設置した場合は、共用部分の夜間の照明、エレベーターの稼働、給排水ポンプの稼働など、100%ではないにしても、非常時には大変重要な働きをしてくれると思います。

既存のマンションで太陽光パネルを導入するのは、まだまだ簡単ではありません。しかし、住民の関心は着実に高まっていると思いますので、1)経済的メリット、2)環境対策、3)防災対策、この3点をしっかりと伝えて、是非導入を実現していただきたいと思います。

<管理組合応援団 団長>