理事会の「引継ぎ」について

新任理事の心得

役員就任が1年交代の輪番制になっているマンションは多いと思います。大規模のマンションの場合、「数十年に1度の機会」という場合もあるでしょう。
そして、立候補して再任を続けてくれる役員がいない場合、1年で全員入れ替わることになり、次の役員の方々は、役員経験ゼロか経験があったとしても遥か昔、といった状況になりますよね。

そのような時、理事会の「引継ぎ」はとても重要になりますが、その方法や項目など決まった型はなく、管理規約のような標準モデルもありませんので、こちらでお勧めの「引継ぎ」のやり方についてご紹介します。

書類、鍵、通帳・印鑑の引継ぎ

まず定形の手続きとして、管理組合の書類、保管キャビネットや保管室(管理室)の通帳・印鑑など、管理組合としてあらかじめ定めた引継ぎ事項をリストにしてひとつひとつ確認しながら、新旧役員が引き継ぎをします。
書類については次のようなものがあります。

区分所有法で保管・管理が
義務付けられている書類
標準管理規約で保管・管理が
義務付けられている書類
保管場所の掲示義務
●利害関係者の請求があれば閲覧させる義務
●怠った場合罰則あり(20万円以下の過料)
●利害関係者の理由を付した書面による請求があれば閲覧させる義務(ただし、③は理由は不要
①管理規約(第33条)③理事会議事録(第53条)
②総会議事録(第42条)④会計帳簿(第64条)
⑤什器備品台帳(第64条)
⑥組合員名簿(第64条)
⑦その他の帳票類(第64条)
⑧長期修繕計画(第32条、第64条)
⑨設計図書(第32条、第64条)
⑩修繕等の履歴情報(第32条、第64条)
※標準管理規約は、電磁的方法が利用可能でない場合の例
※第●条は、左列が区分所有法、右列が標準管理規約(単棟型)

管理組合が管理する書類は、保管・管理する義務や利害関係者に閲覧させる義務があります。特に①、②は区分所有法で定められており、保管場所の掲示義務罰則規定もありますので、引継ぎの機会に、各書類の保管や閲覧のルールについても確認しておくことをお勧めします。

役員の担当業務の引継ぎ

また、役員の役割別の業務の引継ぎがあります。理事長はもちろん、会計、監事、広報、防災、コミュニティ、共用施設運営、修繕工事などの役員の担当が決められていれば、新旧の担当者がそれぞれで引継ぎの会を設けるのがよいでしょう。

明文化されていない慣例の引継ぎ

管理規約や細則には明記されていない慣例や理事会の対応について、「前の理事会ではこうだったのに」という組合員の不満はよく聞くことがあります。例えば、

  • 上下階の騒音問題にどこまで理事会が関与するか
  • 組合員の軽度の規約違反にどこまで厳しく対応するか
  • 町内会活動にどこまで協力するか
  • マンション内のコミュニティ活動をどこまでサポートするか
  • 近隣からのクレームに対してどのように対応するか
  • 専有部分のリフォームをどこまで許容するか

こういったことは、それぞれの管理組合で独自の慣例があると思いますが、必ずしも前例を踏襲すべきというわけではありません。
その時の社会情勢、最新の事例や判例などを鑑みて、改めて妥当性を検討してそのときの理事会で対応方針を決めるべきでしょう。これまでの対応については、検討する際のひとつの重要な要素として考えればよいと思います。
そして、これまでの対応方針を変更する場合は、その結論に至った理由をしっかりと説明することが大切です。

個別のプロジェクトの引継ぎ

これらの定形の引継ぎ事項よりも更に大事なことは、総会で次期以降に実施することが決定した事項や、期をまたぐような長期的なプロジェクトについて、これまでの理事会で検討してきた経緯と方針の引継ぎです。
これらの引継ぎを、管理会社の担当者に任せしてしまう管理組合もありますが、少なくとも引継ぎの場には前任の理事が同席して、担当者の説明が不十分であれば、しっかり補足説明をするようにしましょう。

マンション管理士活用の費用対効果」の記事でも書きました通り、理事会が取り組むプロジェクトは、管理会社の利害に関係するものがほとんどですから、管理会社がその引継ぎを主導をすると、バイアスをかけられることがあると考えましょう。
「管理会社に都合の悪いことは引き継ぎを省略する」などということは、さすがにないと思いますが、説明の仕方次第で、新しい理事会における議論の方向性に影響を与えることは容易です。「引継ぎ」は面倒でも前任の理事が主体的に実施することを強くお勧めします。

引継ぎを成功させる3つの方法

1.例えば大規模修繕工事などの長期プロジェクトは専門委員会を設置して、そのプロジェクトの期間中委員を続けてくれるコアメンバーがいれば、プロジェクトの継続性は担保されます。

2.役員の任期を2年とし、1年毎に半数が交替する方式は、マンション管理に対する意識が高い組合員が多い管理組合でよく採用されている方式です。この方式では前期の任期中にほぼ引継ぎがなされしまうので、改めて引き継ぎの会を設ける必要がない場合もあります。
また、任期が1年の場合でも、次期の役員候補者が定時総会の数ヵ月前から理事会にオブザーブ参加する慣例のある管理組合も同様の効果を得ることができます。

3.マンション管理士と顧問契約し、引継ぎの会を主導してもらう。

管理組合活動に熱心で毎年理事に立候補してくれるコアメンバーが長年役員を務めているようなマンションでは、上記のような方法をとらなくても、理事会の継続性が保つことができます。
ただし、コアメンバーに任せっきりで、他の組合員は皆管理組合活動に無関心という場合は、不正の温床になってしまうこともありますので、役員であるかないかに関わらず区分所有者の責務としてマンション管理に関心を持って組合活動に参加する姿勢を保ち続けていただきたいと思います。

<管理組合応援団 団長>