あるマンションではペット不可なのに、ペットを飼っている人がいて困っている。規約違反だから、飼育をやめさせることはできる?
また別のマンションでは、ペット可の規約だったのに、ペット不可に規約が変更されそう。これってありなの?
マンションに限らずどんな集団でも、ペット賛成派とペット反対派はどちらも一定数いるもので、よくトラブルになりますので、これまでの判例と、トラブルを収拾する方法について一度整理しておくとよいですね。
ペット可だったマンションで、ペット不可の規約変更はできる?
規約の変更は、組合員および議決権の4分の3以上の賛成で決議することができますが、「一部の組合員の権利に特別な影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。」という条件があります。
この「特別な影響を及ぼすべきとき」という点は、「受忍限度を超えるとき」とも言い換えられます。専門家がよく紹介する判例があるので概要を記載します。平成3年12月横浜地裁の判決です。
分譲時の入居案内に「動物の飼育は禁止されている」と記載があったものの、管理規約にはその規定がなかったマンションで、入居当初から犬を飼育していた区分所有者が、理事長による飼育の停止要請に従わなかったため、管理組合は総会で管理規約の改正を決議し、動物の飼育禁止の細則を制定しました。それでも飼育を続けた区分所有者に対して、飼育の停止を求めて訴訟が提起された判例です。
被告の区分所有者は、そもそも本規約の改正は、組合員である自身の権利に特別な影響を及ぼすもので、自分は承諾をしていないから、規約の改正は無効であると主張しました。
そして判決は、ペットは買主の生活を豊かにする意味はあるとしても、買主の生活・生存に不可欠のものとはいえず、被告の受ける損害は社会生活上受忍すべき限度を超えたものではないから、規約の改正は被告の権利に特別な影響を与えるとはいえず、有効であるとしました。
また、裁判官は、共同住宅で他の居住者に全く迷惑をかけずに飼育するには、防音設備や防臭設備を設けたり、飼い方などに詳細なルールを設けたりする必要があり、現在の日本の社会情勢や国民の意識を考えると、全面的に動物飼育を禁止する規約は、相当の必要性・合理性を有すると判示しました。
平成3年12月横浜地裁判決 概要
この判決以降、ペット飼育禁止の管理規約変更は認められる流れができました。ただし、裁判官が「現在の日本の社会情勢や国民の意識を考えると」と述べた時代はまだ、半数以上の分譲マンションがペット飼育禁止だったという点を忘れてはいけません。この判決から10年程度経過したころから、ペット可のマンションが増え始め、ここ最近の新築マンションでは、むしろペット可が一般的となっています。
このような社会情勢や国民の意識に大きな変化があった今、もし同じような裁判があったら判決は違ったものになるかもしれません。
ですので、もしこれからペット禁止をしようとするなら、例えばペットクラブ等をつくってペット飼育住戸の状況を管理組合が把握し、新たな飼育は禁止する一方で、現在飼育中のペットは一代限り認めるといった現実的な移行措置を設けるなど、十分な配慮が必要となるでしょう。
うちの子(ペット)は、誰にも迷惑かけてないけど??
これは、ペットを飼育している人がよく主張する意見です。
具体的な被害の防止や迷惑行為を制限するのではなく、「ペットを飼育する行為」を「共同の利益に反する行為」として一律に禁止する規約は無効、もしくは権利の濫用であるという主張です。
一見もっともな主張で、管理組合にそこまで権限があるのか?という点が議論になりそうですが、これも判例があります。
飼い主以外の入居者にとっては、愛玩すべき対象とはいえないような動物もあること、犬、猫、小鳥等の一般的とみられる動物であっても、そのしつけの程度は飼い主により千差万別であり、動物である以上は、その行動、生態、習性などが他の入居者に対し不快感を招くなどの影響を及ぼすおそれがあること等の事情を考慮すれば、動物飼育の全面禁止の原則を規定しておいて、例外的措置について個別的に対応することは合理的な対処の方法というべきである。
平成6年8月東京高裁判決 一部抜粋
このように、過去の裁判では、ペット賛成派にとってはやや厳しい判決がでています。
では逆にペット禁止からペット解禁になるケースはどうなのでしょうか。
ペット不可のマンションだったのに、ペット解禁の規約改正はあり?
このケースは、現実的に増えてきていると思います。
新築マンションはペット可が標準になってきている背景もあって、既存のペット禁止のマンションでも、いくつもの住戸でペットが飼われ、実質的にその規制が形骸化しているところもあります。
例えば、そのようなマンションで、ペット嫌いの区分所有者が現れて、違反者に規約を守らせるよう要請があったら、理事会はどのように対応すればよいでしょうか。
- 現在ペット飼育している住戸に対し、飼育停止を要請し、従わない場合は法的措置をすすめる。
- ペット飼育は規約で禁止されていることを改めて掲示して周知する。
- ペット飼育の実態調査をして、ペット禁止の規約のまま、現在飼育されているペットのみ一代限りの飼育を認め、新規の飼育禁止を徹底する。
- 昨今の社会情勢と規約が形骸化されてきた背景を考慮し、詳細なルールを規定してペット飼育を解禁する。ただし、ルールを守らない場合は法的措置を含めた厳しい対応を検討する。
1.がペット賛成派には一番厳しい措置で、4.がペット賛成派が最も嬉しい解決方法になります。4.は規約変更ですから、総会の特別決議になりますね。どのやり方が一番良いということはなく、そのマンションのこれまでの歩みや、他のルールとのバランス、住民の皆さんのその時の考え方によって最適な解を見つけていくのがよいでしょう。
どの解決方法を採用するにしても、反対する方は必ずいるでしょうから、住民アンケートなどによる丁寧な意見収集と、反対意見にも十分な配慮をして検討を重ねた上での決定であることを誠意をもってお伝えすることが、できるだけしこりが残さない手順だと思います。
<管理組合応援団 団長>