「来年は、管理組合の役員の当番が回ってくる年なのですが、役員経験者によると、監事の仕事は比較的楽だと聞きました。実際のところどうなのでしょうか?」といったご相談をいただくことがあります。
管理組合の役員の仕事は、個々のマンションによって違いがありますが、一番業務量の大きくなる理事長の他にも、会計、広報、修繕、防災、自治会窓口などの業務を理事メンバーが手分けして担当しています。
一方で監事は、そうした理事の業務を監督する立場であることから、個別の業務を担当することはできません。そのことから、仕事量が少なく見えるのです。
仕事量は少ないかもしれませんが、責任が軽いわけではありません。監事の仕事は「理事会が適切に運営され、適切に業務を実施しているかをチェックする」ことです。
このチェック項目を、「従来から指摘はないから」、「管理会社のフロントが大丈夫と言っているから」という理由で「問題なし」としていませんでしょうか?
各チェック項目を一度しっかりと見直してみることをお勧めします。
監事の責任
最近は減ってきましたが、理事長や会計担当理事による横領や、一部の理事と関係の深い会社への利益誘導などは、昔からある手口です。
そうした悪事が発覚した際には、その悪事をみすみす見逃していた監事の責任が追及される場合があります。
『役員の「善管注意義務違反」とは』という記事で紹介した平成27年の東京地裁の判決では、会計担当理事が組合の預金を横領した行為を見逃した理事長と会計監査役員(監事)の責任を認め、損害額の一部(約500万円)の賠償を命じました。
こうした犯罪や不法行為はめったに起こることではありません。
しかし、悪意なく不適切な運用になっていたり、不適切な状態が放置されていることは多かれ少なかれ、どの管理組合も起こりえることです。監事はそれを指摘して是正させる責任があるのです。
具体的に、どんなことをチェックすればよいのか?
マンション管理業協会が、監事に監査をしてもらうべき項目のチェックリストを公表しています。
大きく分けて、業務監査と会計監査の二つがありますので、まずは業務監査項目を見てみましょう。
管理規約関係 | ① | 管理規約の改正が行われている場合、最新の管理規約が保管されている |
② | 管理規約の保管場所が建物の見やすい場所に掲示されている | |
管理会社との管理委託契約関係 | ③ | 管理会社との委託契約及び適正化法上提出される書類等が管理されている |
④ | 管理費、修繕積立金1ヵ月相当分の保証に関する書面がある | |
総会関係 | ⑤ | 総会の開催期日及び招集通知は管理規約に基づいた期間内に発信されている |
⑥ | 総会の議事録は議長及び出席した2名の区分所有者が署名している | |
⑦ | 総会の議事録の保管場所が建物の見やすい場所に掲示 | |
理事会関係 | ⑧ | 業務の執行は適切に行われている |
⑨ | 理事会の議事録は議長及び出席した2名の理事が署名している | |
建物・設備等の維持管理関係 | ⑩ | 総会で承認された事業計画に基づき共用施設等の維持管理が行われている(点検・法定の届出等) |
⑪ | 修繕工事は管理組合総会で承認された事業計画に基づき実施され、報告書等履歴は担当理事等で保管、管理されている | |
長期修繕計画関係 | ⑫ | 長期修繕計画が作成されており、少なくとも7年以内に見直しされている、計画期間は30年以上 |
図書の保管状況 | ⑬ | 適正化法第103条に定める、宅地建物取引業者から交付を受けた設計図書(竣工図面等)が担当理事又は管理事務室等で管理されている |
帳票類の作成・保管 | ⑭ | 什器備品台帳等が適切に作成・保管・更新され、組合員名簿は年に一回以上更新されている |
損害保険の付保関係 | ⑮ | 総会で承認された予算に基づき共用部分等に火災保険、損害保険等が付保されている(満期に伴い更新されている) |
防災関係 | ⑯ | 防火管理者の選任届及び消防計画が所轄の消防署に届出されている、災害対策マニュアルを作成している |
⑰ | 消防計画に基づき消防避難訓練等を実施している | |
その他 | ⑱ | 防犯、安全、コミュニティ形成などにかかる業務を適切に実施している |
法律の知識や専門知識のない一般人である監事が、独自にチェックできる項目は、半分程度ではないでしょうか。
そして、これらの項目の一部は、管理会社に委託している業務でもあります。その項目について「あなたはちゃんと業務をしてますか?」と質問して「ちゃんとやってます」という管理会社の回答をもって「適切に監査した」と報告しているケースが多いのではないでしょうか。
そのような監査では、一般の企業監査などと比べると、ガバナンスが不十分といわれても仕方のないでしょう。
次に、会計監査項目を見てみましょう。
会計関係 | ① | 管理費、修繕積立金等は総会で承認された予算に基づき徴収及び支出が行われており、未達成の科目は妥当な理由がある |
② | 修繕積立金等は総会の承認に基づき運用されている | |
③ | 会計期末における現預金の残高は貸借対照表の計上額と金融機関が発行する残高証明書の額と一致している | |
④ | 管理に要する費用の支払いは請求書等に基づき処理されており、領収書が発行された場合は当該領収書が保管されている、現金収入がある場合、当該領収書控などが保管されている | |
⑤ | 理事長が改選された場合は、銀行預金等の名義変更が行われている | |
⑥ | 保管口座又は収納・保管口座の印鑑(キャッシュカードその他これらに類するものを含む)は管理組合が保管している | |
⑦ | 管理組合が管理している通帳・有価証券がある場合、それらと印鑑は理事等で別々に保管している | |
⑧ | 管理費等の滞納がある場合は、滞納者に督促等の請求が行われている、滞納が長期となった場合、所定の手続きにより回収を行っている |
いかがでしょうか。こちらも半分くらいは、一般人でも独自に判断できそうですが、財務諸表の読み方や「どこが妥当な理由」なのか、「何が所定の手続き」なのかなど、少し専門知識がないと判断が難しいチェック項目もあると思います。
マンション管理士を監事にするという選択
そうした不十分なガバナンスを改善する手段として、マンション管理士を顧問として契約するのではなく、更に踏み込んで監事に就任してもらうという方法があります。
先に紹介したチェック項目は、マンション管理士であれば管理会社に必要な書類を求め、適切に判断することができるでしょう。
それは、すなわち管理会社の業務監査にもつながり、期中の理事会での管理会社フロントの助言・提案内容に対するけん制も合わせて、管理会社との適切な緊張関係をつくることができるはずです。
最近は、役員の成りて不足の解決手段として第三者管理者方式が認知され始めている中、管理会社が管理者となる方式を積極的に提案している管理会社があるようです。
発注側と受注側の双方代理となるある意味危うい契約状態ですので、少なくとも管理組合の立場で管理者と管理会社を監視する監事には、委託している管理会社と全く関係のないマンション管理士に就いてもらうことを強く推奨します。
いずれも、管理組合にとっては、お金がかかる話ですが、「お金がないから適切なガバナンス体制を整えることができない」という説明は、今後受け入れられなくなるかもしれません。
もし一般企業が、そうした説明をすれば、その会社の株は買われなくなり、銀行も融資はしなくなり、きっと社員も逃げていくでしょう。
企業経営において、「ガバナンス」が非常に重視されるようになったのは、この10~15年程度のことですので、マンション管理業界においても、今後ガバナンスがより重視される時代がくると予想しています。
<管理組合応援団 団長>